馬装具一覧 どんなときに使うの? ~前編~
あなたが乗馬クラブにいるとき、または競馬を観戦しているとき、馬の大きな身体に装着されているさまざまな道具はいったいなんなんだろう?と不思議に思ったことはありませんか?
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ものによってはただの飾りにみえるようなこともあるかもしれませんが、これらはそれぞれに用途が定められている「馬装具」という道具です。
馬装具の歴史は、人と馬が歩んできた歴史そのものと言ってもよいかもしれません。
道具ひとつひとつが現代の形に至るまで、人々の手によってさまざまな試行錯誤が繰り返されてきたのです。
前編では、人が馬に乗るうえでの基本的な馬装具
・頭絡(とうらく)
・馬銜(はみ)
・鞍(くら)
・鐙(あぶみ)
をご紹介していきます。
頭絡(とうらく)と馬銜(はみ)
頭絡(とうらく)とは馬の頭部にとりつけ、馬の動きを制御するハーネス状の馬具のこと。
いくつかの金具と革ひもを合わせて作られており、拳による騎手の指示を手綱から馬銜を通じて馬の口元に伝える役割を持っています。
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馬銜(はみ)は頭絡を構成する部品の一つで、馬の口の中にある「歯槽間縁(しそうかんえん)」という歯のない部分にかませる金具のことです。
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手綱を引くと馬銜(はみ)が馬の舌と口角に刺激を与え、騎手は拳の動きを調整することで複雑な指示を使い分けることが出来るようになりました。
頭絡の種類は大きく分けて2つあります。
「水勒(すいろく)」
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乗馬用として最も一般的な頭絡。
「水勒銜(すいろくばみ)」という馬銜を1つだけ使用しており、口角に当たる部分に手綱と連結する円形やD型の金具(銜環)があります。この頭絡は馬の口への刺激が柔らかいのが特徴です。
初心者の乗馬から障害飛越・馬場・総合馬術、外乗、馬車用と用途がとても広く取られています。
「大勒(だいろく)」
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口の端に作用する銜枝(はみえだ)がある「大勒銜(だいろくばみ)」と小さな水勒銜の2つの馬銜を合わせて用いる頭絡で、先ほどの水勒よりも騎手からの扶助をより強く、細かく伝えることができます。そのため上級の馬場・障害飛越馬術で好まれて用いられます。2つの銜を使うため、それぞれに連結した2組の手綱を操ることになります。
この他に、乗馬クラブなどでよく目にするのが「無口頭絡(むくちとうらく)」ではないでしょうか。
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これは馬銜のついていない頭絡で、馬の手入れをする際に繋ぎ止めておいたり、馬房から馬を移動させる時などに使用します。裸の馬をいちから捕まえるのは大変なので、牧場などでは無口をつけたまま放牧させることもあります。
古来の人々が馬を家畜化してその背中に乗ろうとしたとき、馬の上下の歯の隙間に綱を結んで手綱のようにしたものが馬具の始まりではないかと考えられています。 今日でも、ロバなどを扱うときにこのような方法を用いている地域がトルコやギリシャなどに残っています。
初期に発明されたころの馬銜は木や動物の角などを使っていたそうで、今のような金属製の馬銜が現れたのはおよそ紀元前1300~1200年頃だったといわれています。
日本に残る一風変わった馬具「オモゲー」をご存じですか?
「面繋・オモガイ」ともいって、古くは北海道から鹿児島・南西諸島と広い地域で使われていた馬具です。2本の棒状・板状の木片と縄で作られており、馬の顎の下の手綱を引くと左右の木片がきゅっと絞られ、馬を制御することが出来ます。
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現在では使用される機会は減ってしまいましたが、沖縄・奄美群島に住む宮古馬や与那国馬などの一部の在来馬たちが身に着けているのを目にすることが出来るそうですよ。
鞍と鐙
人々が馬を乗りものにしようと考えた一つの要因に、馬が持つ特徴的な身体つきがあります。
それは、歩いていても、全速力で走っても背中がほぼ平らに保たれること。
野生の馬を家畜にした当初は、その性質を利用して裸の馬にそのまま、または布をかけた背中に乗っていましたが、長時間またがったり、荷物を乗せて長い距離を移動しようとするとさすがに疲れてきてしまうのは現代の私たちにも想像に難くないかと思います。
そこで考え出されたのが馬の背に乗せる椅子「鞍」でした。
諸説ありますが、鞍の原型は紀元前7~4世紀ごろに中央アジアに広く暮らしていた騎馬民族・スキタイ人が柔らかい革製のものを使用していたのが始まりといわれています。
現代の鞍は木製の枠「鞍骨」になめし革を被せた革製のものが主流となっています。
裸の馬の背にそのまま硬い鞍を固定してしまうと運動した際に「鞍擦れ」などといった擦り傷を作ってしまうので、
馬の汗や摩擦を吸収する「ゼッケン」
↓
衝撃を和らげるゲル状などの「パッド」
↓
騎手が乗る「鞍」
といった順番で馬の背中に載せていき、「腹帯」と呼ばれる幅の広いベルト状の道具で馬の身体と鞍をしっかりと固定します。
鞍には騎乗する目的や用途によって異なった形状のものが派生しており、大きく分類するとヨーロッパ式の「ブリティッシュ鞍」、アメリカ式の「ウエスタン鞍」の二種類に分けることが出来ます。
ブリティッシュでは、
・障害飛越競技で用いる、前傾姿勢を取りやすい「障害鞍」
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・馬場馬術で用いる、正反動に適した「馬場鞍」
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・障害鞍と馬場鞍の中間的な「総合鞍」の三種類。
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日本は現在ブリティッシュ競技が主流のスタイルになっていますので、これらの鞍は乗馬クラブなどで比較的よく目にすることが出来ます。
ウエスタンでは、
いわゆるカウボーイが使用するウエスタン・サドル。
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ブリティッシュ式の鞍に比べて重量感のある作りで、鐙は革製、鞍の前部分に「ホーン」と呼ばれるグリップが配置されているのが特徴です。 この鞍は長時間馬に騎乗したまま生活をするカウボーイに合わせて、負担が少ないようシートが広く作られています。
この他にも地域や文化などによって多種多様なものが用いられています。
・競馬で用いる超軽量の「競走鞍」
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・流鏑馬などの日本古来の馬術に用いられる「和鞍」
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・ロングドレスを着たまま腰掛ける「婦人鞍(サイド・サドル)」
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どの鞍も興味深い形状をしていますね! 馬により良く乗りたいと願う人々の努力の結晶です。
鐙は騎手が足を乗せ、騎乗姿勢を安定させるのに非常に役に立つ馬具です。
鞍から左右一対、鐙革(あぶみがわ)で吊り下げて使用します。
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通常の乗馬では軽く膝が曲がる程度の革の長さで使用しますが、競馬では「モンキー乗り」
という独特の騎乗方法を用いるため、驚くほど短く鐙を上げた状態で乗っていますね。
※モンキー乗り
鐙を通常よりかなり短く上げ、腰を浮かせて背中を丸めた前傾姿勢で騎乗する方法。
全力疾走する馬の身体の動きを妨げない乗り方で、馬への負担が少ない反面、騎手にはバランス感覚や身体を支える筋力が求められます。モンキー乗りの発祥は18~20世紀のアメリカとされ、ウィリー・シムズ騎手やトッド・スローン騎手らの功績により競馬界に急速に普及しました。
鐙に近い馬具が発明されたのは紀元前2世紀ごろのインド。当初は足を安定させるというよりは、馬の背中によじ登るために足の親指をひっかけるフックのようなものだったそうです。
その後晋の時代の中国で現在のものに近い鐙が発達し、長い時間をかけて世界へ広まっていきました。
鞍と鐙が発明されたことで、騎手は安定した姿勢で長時間馬にまたがることができるようになり、馬にとっても身体にかかる負担が大きく軽減されることになりました。
まとめ
今回は馬に乗る際の基本の馬装具「頭絡・馬銜・鞍・鐙」をご紹介しました。
同じ道具であっても時代や地域、用いる馬によって形状が少しずつ変わっていくのが馬具の面白いところですね!
後編ではこれらに加えて使用する、サポート的な役割の馬装具を特集します。
ちょっとカワイイ!といった変わり種の馬装もご紹介していくので、ぜひお楽しみに!